客观日本

「『ロボットは東大に入れるか』 ブレークスルー目指す人工知能プロジェクト」

2014年11月11日 机械/机器人

第3のブームといわれる人工知能研究で意欲的なプロジェクトが進んでいる。「ロボットは東大に入れるか」という名称を掲げ、一般の人の関心も引くプロジェクトだ。新井紀子国立情報研究所教授をリーダーに国内の大学、研究機関、企業だけでなく海外の研究者たちも巻き込んでいる。「過去30年間の人工知能研究で足りなかった部分を明らかにし、真のブレークスルーを目指す」(新井教授)と目標は高い。このプロジェクトが目指す狙いは何か。「偏差値47」「大学受験生の平均に近づく」などと新聞各紙が報じた11月2日の成果報告会の報告、質疑を基に紹介する。

新井教授らはこのプロジェクトを始めるにあたり、「2016年度の大学センター模試で高得点をとる」「2021年度の東大入試に合格する」という目標を掲げた。「自分たちを鼓舞する」意味をこめたという。

都内で開かれた成果報告会では、プロジェクトの狙い、概要とともに「東ロボ君」という愛称を持つ人工知能システムが、昨年に続き大手予備校「代々木ゼミナール」の大学センター模試に挑戦した結果が科目ごとに報告された。

同プロジェクトの事務局担当、藤田彬国立情報研究所特任研究員によると、「東ロボ君」は、自ら試験問題そのものを読み取って答えを出すまでの能力は持っていない。現段階で人工知能がイメージを読み取り、解釈することはできないからだ。何を問うている問題か認識させる最初の補助的作業は、プロジェクト事務局員が行い、人工知能が読めるようなデータとして提供する。それ以降の頭脳的な役割を担う「東ロボ君」は複数の構成になっており、並列処理による作業結果を組み合わせて一つの答えを出す仕組みになっている。「代々木ゼミナール」が長年、実施している大学センター模試と同じ問題を解かせる挑戦は、実際の模試と同じ時間制限下で行われた。

昨年に続き2度目となる今年の結果は、世界史B、国語(現代文・古文)、国語(現代文)、数学Ⅱ・数学B、英語といった科目が、実際の模試受験生の平均点を上回った。偏差値もそれぞれ56.1、54.2、51.9、51.9、50.5と受験生の平均値である50.0を上回り、さらにいずれも昨年より偏差値を伸ばしている。そのほかの物理、日本史B、数学Ⅰ・数学A、政治経済は50.0以下だった。日本史B、数学Ⅰ・数学A、政治経済は昨年より数字を落としている。「昨年に比べると英語は飛躍的に伸びている。国語も(担当の研究者たちが)悩みながら伸びた」と坂口幸世代々木ゼミナール入試情報センター本部長は評価した。

坂口氏によると、今回の「東ロボ君」の結果は、偏差値が50という平均値に肉薄しており、文系私立大学なら6割近い学部に合格の可能性が80%以上見込まれるという。ただし、偏差値50付近というのはもともと数が多い私立大学文系学部がひしめいているところ。「大学の偏差値ピラミッドで言えば、まだ2合目ないし3合目。偏差値70の東京大学には非常な距離がある」という評価だ。

新井プロジェクトリーダーによると、常識という人間なら容易に理解できることが人工知能は苦手。関連が意味のある文章と「風が吹けばおけ屋がもうかる」類の文章が区別できない。常識というものの言語処理が非常に難しいためだ。例えば、物理の問題で鉄板が出てくると、鉄板がいかなるものか受験生なら常識となっていることが分からない。問題の意味を理解すること自体が困難ということになる。

だが、それはこのプロジェクトの意義を下げるものではない。「機械がどこまでできるかを明確にし、専門家でない人間が機械と一緒に問題解決を図った場合、どこまでできるかを明らかにしたい」と新井氏はプロジェクトの狙いを語った。ロジック(推論の方法)と統計的手法を現代的センスでつなぐという世界で誰もやっていない研究方法に挑んでいることも強調している。

もう一つ注目されるのは、このプロジェクトが米国を初め国際的に盛んになっている共通評価タスクという研究手法も取り入れていることだ。データを外国語にも翻訳して共有のものとし、世界中の研究者が同じ問題を解き成果を持ち寄る共通評価タスクがすでに5つ動いているという。

小岩井忠道(中国総合研究交流センター)

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